干物、ふるさと、母の愛。
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「家を離れて知る親心」。県外に就職して一人暮らしを始めた今、しみじみとこのことばの意味を痛感する。実家にいた頃は、親の小言や生意気な妹の存在が煩わしくて、「こんな家、早く出ていく」が私の口癖だった。だから、就活はあえて県外の会社を選んでエントリー。幸運にも第1志望の会社に入ることができ、夢にまで見た一人暮らしも始まった。
見知らぬ土地、慣れない人間関係、初めての社会人生活…。ホームシックにかかるゆとりもないくらい張りつめた日々が続いていたせいか、6月に入って体調を崩してしまった。
仕事を休んで自宅で横になっていたが、なぜかなかなか寝付けない。熱を計りたくても体温計すらないことに気づき、一人暮らしの侘しさと不便さを身をもって感じた。心細さからだれかと話をしたしくなり、横になったまま実家の母に電話をした。「こんな時間にどうしたん?」と驚く母に、「風邪で今日は仕事休んだ」とぶっきらぼうなわたし。
「便りのないのは元気な証拠と思うてたけど、あんたのことやから、がんばりすぎたんやろね。心の風邪ひきさんに効く薬、近々送るから」。
母は一方的にしゃべって、さっさと電話を切ってしまった。
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数日後、仕事から帰宅するや否や、小包が届いた。送り主は母。パンパンに膨んだ箱の中からは、私の好物が手品のように次から次に出てきて、ふふっと笑ってしまった。
「一人の食卓こそ手抜きは厳禁。わが家の自家製味噌と一緒に干物を送ります」。
母の後ろ姿を思い出しながら台所に立ち、私は自分のためにごはんを炊き、味噌汁を作り、干物を焼いた。故郷の山と海、そして母に感謝。